1.はじめに
現在、私は単身赴任しています。5月の連休中は自宅に帰っていましたが、息子が本場明石で明石焼きを食べたいと言い始めました。私の家からは電車で大人二人往復5,000円近くかかってしまいます。こんなことがしょっちゅうあるのでは大変。よし、それでは、本場の味を覚えて自分で作ってやろうと思い立ちました。自炊を始めたこともあり、レパートリーの一つになればよいかなと軽い気持ちで出掛けました。しかし、結果的には最適化の検討をしなければならないほど難しいことが後でわかりました。これが、私の明石焼き研究家?としてのスタートです。
明石の「今中」というお店に行きましたが、駅からは距離があり、近くまで行き着いたものの、お店を見つけることができませんでした。突然、息子が「� �いにおいがする」といい、それにつられて行きますと、なんとお店に到着しました。おそるべし、食べ物への執着です。こじんまりとしていますが有名なお店で、芸能人とかと写っている写真なども飾ってありました。おばちゃん、おっちゃんが玉子焼き(明石ではそう呼ぶらしい)を心を込めて作ってくれます。
(お断り)
ここでの作り方は、自分なりにデータをつけ、それをまとめたものです。これがどこでも再現できるかどうかは保証しかねます。あくまでも参考にしていただけたらと思います。
2.準備
(材料表) 大玉約40個 (以前にアップしたものから配合を変えています)
この量は、更新したタコ焼き機2ラウンド分に相当します
じん粉120g、メリケン粉(市販たこやき粉)50g、具のタコもお忘れなく
生地用たし汁 1100〜1200m (+つけ出汁用を別途用意)、卵5個
昆布、調味料、ミツバ
(手順)
1.昆布だしをとる(水だしがよいので、冷蔵庫で前日から)
2.じん粉の調合
3.調合した粉に卵を加えて均一にした後、だし汁を加える
4.残っただし汁をさらに味付けし、つけだしを作る
5.たこやき器を熱し、よく混ぜた生地を加えて焼き始める
6.ある程度固まってくると、少し空間をつくり、さらに生地を加えてボリュームをだす
7.お箸を用いて、適宜回転させながら、まんべんなく焼いていく
8.外側をカリカリにしないように熱加減を調整しながら、ふんわり仕上げる
9.つけだしは、好みによって事前に温めておき、ミツバを加える
"放置することはできません犬" 。
10.出来上がれば、さめないうちに食べる(冷えるとふわふわ感が失われます)
3.粉はどうするの?
まず、明石焼きに使う粉を調達する必要があります。スーパーで売っているたこ焼き粉では、うまくつくることができません。明石焼きには「じん粉(こ)」を使う必要があります。メリケン粉からグルテンを除いたもので焼いても固まらないのが特徴です。私は白川商店から購入いたしました。
グルテンは小麦粉に含まれるタンパク成分で、加熱すると固まる性質があります。小麦粉には強力粉、中力粉、薄力粉がありますが、グルテンが多く含まれる順番です。うどんのコシもグルテンによるもので、多すぎても麺が硬くなり、この成分の調製がポイントです。じん粉はグルテンを除いてありますので、たとえば和菓子のようなものにも使われています。明石焼き特有のふわふわ感を出すためには、この粉が必� ��と言えるでしょう。
次に、粉の調合ですが、じん粉単独ではなく、たこやきの粉を混ぜて使います。白川商店から届いたじん粉には作り方が書いてありましたが、自分なりに混ぜる比率を検討してみました。その結果、じん粉(7):たこやき(メリケン)粉(3)の割合がベストでした。実は、これは入っていたレシピと同じです。たこやき粉の比率が上がりますとふわふわ感がなくなり、表面も固くなります。逆ですと、焼くときにうまく固まらせることができません。
なお、粉の「かさ密度」を調べてみました。1mlが何gに相当するかですが、0.5(g/ml)でした。つまり計量カップで100ml(cc)取ると50gになるということです。よく、料理は目分量とかでされる方がいらっしゃいますが、技術者の私としては、データを大切にします。感覚で作るのではなく、誰が作っても同じ品質のものができるということを目指したいものです。とくに原料の調合は、その明石焼きの出来を左右するとても重要な操作と考えられますのできちんと計量しましょう。(すみません、つい、仕事の世界を引きずってしまいました)
4.卵の量
さて、次は卵の量です。上記調合した粉50g(すなわち100cc)に対して、卵二つが基本になると思います。ただし、粉100gに対して卵一つでも、問題なくできました。下記の写真は、100gに対して二つ入れたものです。まず粉と卵を均一に混ぜてからだし汁を加えて生地にしました。卵と粉でグルテンができるかどうかは私は知りませんが、だし汁を加えてから卵を入れると、うまく分散するか不安があったので、この順序にしました。
"あなたはクルミをスライスすることができます。"
←卵でといた後
5.だしと生地の作り方と量
次はだし汁です。水だけで溶いて生地を作りますと、どうしても出来上がりの味が薄くなってしまいます。そこで、最初からだし汁を加えて生地に味をつけておきます。こんぶだしが基本と思われます。息子と行った「今中」では利尻昆布を使っているようです。やはり本格的に「水だし」でいきたいところです。半日くらいは水につけておく必要があるでしょう。昆布にハサミで切れ目を入れておくのもよいかもしれません。なお、ご存知とは思いますが、だし昆布は、沸騰させるとヌメリが出てくるので注意してください。
さらに、私はこのだしに調味料を加えて味を整えています。市販のだしの素、塩、少量の砂糖をその日の気分?で加えます。
私は日高昆布を使っています スラリーはシバシャバで、たえず撹拌しないと沈殿します
生地を作るために加えるだしの量ですが、調合した粉に対して重量比6倍がよい結果を与えました。つまり、粉50g(100cc)に対して300mlということになります。これもだいたいの勘ではなく、きちんと計量しましょう。これよりも生地が濃いと、ふわふわ感がでてきません。7倍でも作ることは可能ですが、焼くときに苦労すると思います。このあたりは、個人の好みで調整すればよいと思いますが、生地がシャバシャバですので、最初は驚かれるかもしれません。じん粉が重いので沈殿しやすく、お玉でよく撹拌しておく必要があります。
6.いよいよ焼きはじめます
たこ焼きでは、刻んだキャベツ、紅しょうが、てんかすなどを一緒に入れたりしますが、明石焼きは、具がタコのみなので、用意するものは簡単です。入れるタコは、それほど大きくない方がよいでしょう。
(a) (b)
アトキンスは、食品のリストを食べることができる食事療法
生地をよく混ぜて、油を引いたたこやき器に一気に入れて、しばらくしてタコを入れていきます。なお、私が使っているたこやき器は、ホームセンターで売っている千円ちょいの電気式のもので、微妙な温度調整ができません。予め少し熱しておき、生地を入れた後に再加熱するようにした方がよいと思います。できるだけ温度分布がないようにするのがコツかと思います。
ある程度、固まってきたら、お箸を使って、ぐるぐる回す感じで少し空間を作り、そこに生地を継ぎ足します。そうすることで大きな明石焼きができます。これは、たこ焼きを作るときにも使うテクニック?で、空洞にならないようにする工夫です。上記写真(b)が、後から生地を足したものです。とてもこれから出来るとは思えないのですが、そ� �うち下記写真(c)のようになってきます。生地がやわらかいのでお箸を使わないとうまく焼くことができません。
ようやく完成(写真(d))です。たこ焼きの場合は、鼻歌まじりで、ころころと回しながら焼くことができますが、明石焼きの場合は、やわらかいので焼くのが一苦労です。
(c) (d)
7.出来上がり
苦労の末、ようやく完成です。
本当は、もっと表面がやわらかくなればよいのですが、このあたりはご愛嬌というところで。
やはり、明石焼きは、つけだしにつけて食べるのが特徴でしょう。つけだしは、上記のだし汁にさらに調味料、塩、しょうゆなどを少し加えて味を濃くして作ります。このあたりは、うまく表現できませんが、少しだけしょっぱさが加わるという感じでしょうか。予め電子レンジなどで温めておきましょう。ミツバを加えるととても香りがよくなりますので必須といえるでしょう。
雰囲気を出すために、100円ショップで買ったまな板の上にのせています。
さめるとおいしくないので、熱い間に一気に食べましょう。ただし、出来たてはとても熱いので注意してください。
関西出身の6名の方をモニターに選び、味、食感、見た目、雰囲気を確かめてもらいました。その結果、6名中6名、つまり100%の方から、「まさに明石焼きや」といううれしい評価をいただきました。
8.おわりに
最初に作ったときには、表面がこげて大失敗に終わりました。悲しいかな、技術者気質で、最適化に向けての実験をしてしまいました。条件を変えて12ロット作り、データを収集しました。粉やだしの量などの処方に関しては、ベストなところにきていると思いますが、焼き方、あるいはエージング(熟成)のようなことまでは踏み込んでいません。このあたりはとてもおもしろい研究テーマになると考えますので、じっくり取り組んでいきたいと思います。
9.続き(焼き方について)
焼き方についての追加研究です。温度調整ができるタイプのたこ焼き器を買いました。
これでも千円台です。この新しいタイプを使って、焼く温度を調べてみました。その結果、油をひいた後、少し煙があがる程度まで加熱して、一気に焼き上げることが大事であることがわかりました。焼くということは、「小麦粉でんぷんをα化する」、「卵のタンパク成分の変性」であるので、加熱温度がそれらに大きな影響を与え、このことが美味しさの秘訣であることを発見しました。今までは、時間をかけて中まで加熱しなければという意識から、少し弱めでじっくりと熱をかけていましたが、これでは本当に柔らかいものができません。こげつきが心配されますが、大丈夫です。装置の熱容量から考えても過熱(over heating)にはならないでしょう。繰り返しになりますが、熱を一気にかけて周りが固まったら出来上がりというのがコツというのがわかりました。
ちなみに、小麦粉は「でんぷん」ですが、生ではβ(ベータ)状態で吸収が悪く、加熱することで吸収のよい美味しいα(アルファ)状態に変化します。ご飯を炊いて美味しくなるのもこの原理ですね(焼き芋なども)。山に行っているころにアルファ米を非常食として持参していました。これは炊いてα化したお米をフリーズドドライ(凍結乾燥)したものです。非常時には水を加えただけでも食べれますし、最悪、そのまま口に含むことができます。
一旦α化したものも冷えると一部結晶化が起こり、硬くなったりします。やはりアツアツがベストですが、トレハロースや糖類を加えることで防止できるようです。冷えてもおいしい明石焼きを作るためには、何か「つなぎ」になるものを加えるとよいかもしれません� �(明石焼きに多く加えられる卵にもその効果はありそうです。ちなみに我が家のお好み焼きには山芋が加えられることがあります。)
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